2020年はコロナ禍を追い風に、業績を伸ばしてきた「SaaS」「EC」の関連銘柄。株価も順調に上げてきました。これら1年間の業績や株価は、2月の決算発表にどのような影響を与えたか。また今後はどのような展開が予測されるのか。注目の銘柄をピックアップして検証します。

目次

  1. 「SaaS」「EC」関連企業 最新決算ダイジェスト
  2. 今後注目しておきたい「SaaS」「EC」関連銘柄
  3. 今後の展望は?見通し・シナリオ・リスク等

1.「SaaS」「EC」関連企業 最新決算ダイジェスト

まずは「SaaS」と「EC」における、代表的な企業の最新決算発表を見ていきましょう。

SaaS

●サイボウズ

グループウェア最大手のサイボウズは、2月12日に2020年12月期決算を公開しました。

決算説明資料によると、2020年12月期の通期売上高は156億7,400万円で、前期比で16.8%増となりました。営業利益は22億7,000万円で31.1%増と、コロナ禍という追い風を受け絶好調でした。

●Chatwork

国内ビジネスチャットツールの草分け的存在であるChatworkは、2月12日に2020年12月期決算を公開しました。

決算説明資料によると、2020年12月期の通期売上高は24億2,400万円で、前期比で33.6%の大幅増となりました。営業利益は3億2,700万円で前期比321.1%増と、こちらもコロナ禍という追い風を受け絶好調でした。

●フリー

クラウド会計ソフトでトップを走るフリーは、2月10日に2021年6月期第2四半期決算を公開しました。

決算説明資料によると、第2四半期の累計売上高は46億1,600万円で、前年同期比で50.3%の大幅増となりました。営業利益は7億2,000万円の損失で営業赤字を計上するも、赤字額を33.5%圧縮しました。

●マネーフォワード

家計簿アプリから業容を拡大中のマネーフォワードは、1月14日に2020年11月期決算を公開しました。

決算説明資料によると、2020年11月期の通期売上高は113億1,800万円で、前期比で58.1%の大幅増となりました。営業利益は28億400万円の損失で営業赤字を計上し、14.6%の赤字拡大となりました。

EC

●楽天

国内Eコマース大手の楽天市場を運営する楽天は、2月12日に2020年12月期決算を発表しました。

決算説明資料によると、2020年12月期の通期売上高は1兆4,555億3,800万円で、前期比で15.2%増となりました。営業利益は938億4,900万円の損失で営業赤字を計上。楽天モバイルの投資が響いています。

楽天市場を擁するセグメント「インターネットサービス」の売上高は8,201億1,500万円で前期比10.3%増となりました。セグメント損益は401億1,400万円、前期比62.6%の減益でした。

●BASE

ネットショップ大手のBASEは、2月10日に2020年12月期決算を発表しました。

決算説明資料によると、2020年12月期の通期売上高は73億2,100万円で、前期比で128.9%の大幅増となりました。営業利益は9億4,200万円を計上し黒字転換。コロナ禍という追い風を受け絶好調でした。

●ZOZO

ファッション通販サイトZOZOTOWNを運営するZOZOは、2月12日に2021年3月期第3四半期決算を公開しました。

決算説明資料によると、第3四半期の累計売上高は1,084億8,000万円で、前年同期比で18.1%増となりました。営業利益は337億8,500万円で前年同期比74.3%の大幅増を記録しました。

まとめ

「SaaS」と「EC」、いずれの業界も、コロナ禍という未曽有の危機をたくましく生かし、成長を遂げた企業が連なっています。ワクチンの接種が開始され、脱コロナ禍に向けて進んでいく今年から来年の来たる収束を見据えて、注目すべき企業を深掘りしていきます。

2.今後注目しておきたい「SaaS」「EC」関連銘柄

●フリー/マネーフォワード

マネー系のビジネスクラウドを商材とする両社は、確定申告・会計など直接競合するアプリもあり、売上高が著増している点も共通しています。しかし、PSR(株価売上高倍率)を比較すると、フリーの85.99倍に対してマネーフォワードは20.57倍と評価にかなりの差が付いています。

国内株式市場の大型株指数(MSCI Japan)のPSR 1.07倍、小型株指数(MSCI Japan Small-Cap)の0.65倍に比べれば、いずれも天空に届く勢いの超成長株水準ではあるものの、両銘柄に対する投資家の期待に4倍もの差がある点は、深掘りしておきたいところです。

直近の4四半期分の売上高・営業利益の確認と業容の点検、中期計画なども踏まえて、両社の成長性を検討していきます。

【直近四半期(単期)の数値】

フリーは2020年10~12月、マネーフォワードは2020年9~11月の最新四半期短期の業績を比較します。時期が1カ月ずれていることもあり、売上高・営業利益の絶対額はここでは触れません。売上高の成長率は同程度で、成長性はどちらも目を見張るような高水準です。

一方、営業利益率はフリーが18.7%ダウン、マネーフォワードが35.9%のダウンと差が付いています。いずれも成長局面にあり利益を追求するフェーズにまだ入っていないことが見て取れますが、投資家は早期の黒字転換を期待したいところです。

売上総利益(粗利)率の比較ではフリーが79.2%、マネーフォワードが68%となっています。営業利益率の差は、販管費を差し引く前の収益性で11%程度、販管費(人件費等のコスト)で6%程度と分解できます。

まずは売上を拡大するための戦略も当然重要ですが、この部分の差が広がっていくと、この先の利益再投資・事業拡大・発展に格差が生じてくる可能性があります。

マネーフォワードは「Money Forward Business」「Money Forward X」「Money Forward Home」「Money Forward Finance」という4つの事業ドメインで構成され、事業の多角化(27レーベル)が進んでいます。

なかでも「Money Forward Business」が売上高・成長率とも最大で、他の事業ドメインもおおむね順調に成長していますが、Businessとの比較では成長性でやや後れを取っています。

経営陣は今後の成長戦略として「Businessドメインへの戦略的な投資」「複数事業の運営によるシナジー創出」を掲げ、二兎を追っていくことを宣言していますが、BtoB事業とBtoC事業が混在しており、シナジーの拡大は道半ばです。

多角化が進捗し、投資家にエコシステムとして認知されるまでは、フリーとの比較で「コングロマリット・ディスカウント」(事業の多角化が響いて市場の評価が低くなる現象)が解消されない可能性があります。

両者の今後の業績に対するアナリストのコンセンサスは以下の通りです。

マネーフォワードの2022年度営業利益の成長率予想は、257.1%のプラスと目を見張るものがあります。アナリストのコンセンサスは本来は鰯の頭程度に捉えるべきですが、中・長期保有前提ならマネーフォワードにも目があると考えても悪くはないでしょう。

先行指標

ALTalkでは、両社のweb訪問数をチェックできます。上がフリー・下がマネーフォワードで、フリーは昨年6月からページビューが急上昇している一方、マネーフォワードの伸びはフリーほどではありません。本来なら、後者はBtoC事業を営んでいることを勘案すると、より不特定多数の閲覧を集めやすいはずです。これらのweb訪問数の差は、見掛け以上に成長性・株式評価の格差を暗示しているかもしれません。

(ALTalk「フリー」より)
(ALTalk「マネーフォワード」より)

●BASE

BASEは2020年春の緊急事態宣言以降、巣ごもり消費の活発化を取り込み、劇的な成長を遂げました。昨年後半から大量出稿されたテレビ・インターネット広告を、実際に目にした方もおられるかもしれません。2021年以降、アフターコロナに向けて特需が沈静化していく当社の中期予想を確認していきます。

決算説明資料を見ると、2021年は成長がいったん「踊り場」入りするものの、強気の投資を継続し2022年以降は高成長を復活させるとしています。BASE事業では、プロモーション投資をさらに強化して、ニッチな商品を息長く売っていく「ロングテール市場」におけるプレゼンスを確固たるものとし、中長期的な高成長をもくろんでいます。

売上高は97.5億~105.36億円程度に着地させ、17.6%~27.1%程度の増加を見込みます。先行投資の拡大を踏まえ、営業利益は-9.29億~-14.33億円程度の営業損失見込みとなっていますが、2月10日の決算発表以降、当社の株価は8.4%の上昇を見せています(2月22日現在)。この間、マザーズ指数は0.7%下落しており、決算内容が好感されたといえそうです。

BASEは月次の発表を行っていないため、ALTalkのオルタナティブデータや株式情報サイトでニュースを確認しつつ、昨年12月に発生し勢いを増しているモメンタムを生かしたトレードが、投資家のオプションに入ってきます。

(ALTalk「BASE」より)

BASEのweb訪問数は、昨年5月以来、増加の一途にあります。下落トレンドの兆候が見えてきた際には、業績を今一度確認して、慎重に臨みたいところです。

3. 今後の展望は?見通し・シナリオ・リスク等

●フリー/マネーフォワード

フリーの決算説明資料によると、想定顧客の分析において「有料課金ユーザー企業数は、個人及びSmallセグメントを中心に安定的に増加」としています。具体的には個人事業主450万人、20名以下企業150万社が対象です。

この部分は、開業率・廃業率の影響を受けます。開業率が高くなればフリー・マネーフォワードのサービスを利用する顧客は増えますし、廃業率が増加すれば減るでしょう。厚生労働省「雇用保険事業年報」を確認すると、開業率は2008年に底をつけた後、2013年から上昇の角度が確度が急になっています。廃業率は2009年に天井をつけた後下降の一途です。

リーマンショック後の米国好景気を受け、さらに2013年以降は、アベノミクスの追い風を受けています。近年ではウーバーイーツに代表されるギグエコノミーの浸透や、電通やタニタによる社員の個人事業主化を先駆けに、想定顧客は増加していくと考えられます。

とはいえ、開・廃業率は景気動向に大きく左右されることを等閑視するべきではありません。ワクチン接種の進展と巨額の財政支出に支えられ、コロナ収束を先取りする米国景気回復の恩恵を受け、日本経済も回復が見込まれる2021年です。

株価も上昇が期待されますが、忘れ去られている金利上昇からの景気の「踊り場入り」を金融市場が先取りする局面もないとは言えません。

両社とも、上場後の不景気をまだ経験していません。まだ過剰におびえる段階ではありませんが、この点に留意して四半期ごとの経営陣のコメントを聴いていく必要がありそうです。

●EC各社

2019年12月の野村総合研究所による予測では、EC(BtoC)市場は2020年の20.8兆円から2022年には23.4兆円、2025年には27.8兆円への成長が見込まれていました。2020年~2025年の成長率は、年率6%程度の想定です。

コロナ禍で2020年のEC市場の成長は上振れた可能性がありますが、コロナ収束を徐々に織り込んでゆき、元々の想定成長率程度へ収れんしていくと考えるのが穏当です。BASEの中期予想で見たように、成長の「踊り場入り」で株価のボラティリティが増す局面もあり得ます。

問題は、投資判断に際して、コロナ収束後の消費におけるECの定着をいかに織り込んでいくかということでしょう。都市圏⇔郊外・地方の人口移動が一つの目安になる可能性があります。都市からの人口流出はリアル消費離れ=ECの定着を、都市回帰はリアル消費の回帰=EC離れを、それぞれ想起させます。

2月25日には、共同通信のニュースで「東京都、7カ月連続で人口流出」という記事が出ました。都市を離れているのがコロナ禍で職を失った方やオンライン講義で都市に居住する意味を失った学生なのか、あるいはテレワークの定着で良い住環境を求めたファミリー層なのかによって、コロナ後の都市回帰フェーズの様相は変わります。引き続き、報道はチェックしておくべきでしょう。

●SaaS・EC全般

20年を超えるデフレ・ディスインフレに慣れ切った私たちは、長期金利の上昇と早期のテーパリング(金融緩和の縮小)観測で持ち切りの米国金融市場を見ても、それが日本に波及するというイメージは相当持ちにくくなっています。「金利上昇を心配するなら、まず金利とやらを屏風から出してください」というところではないでしょうか。

実は日本でも、長期金利はじわりと動いています。2019年8月28日に-0.287%の底をつけ、その後しばらくは0%~0.05%のレンジで推移しましたが、昨年末から動意づいて2021年2月25日には0.138%まで上昇。超成長株には、これがボディーブローのように効いてきます。

成熟企業と異なり、事業資金の外部調達が命綱である超成長企業において、資金調達コスト上昇に直結する長期金利は、わずかでも上昇してほしくはありません。投資家サイドにとっても、超成長企業の収益発生が比較的先の未来であることを考えれば、長期金利=割引率の上昇は割引キャッシュフローを減少させ、株式の現在価値を損ない、結果的に株価下落につながります。すでにバリュエーションは水の入った風船のようにパンパンです。たとえ数十ベーシスであっても、看過していれば針の切っ先となる可能性があるのです。

取り上げた銘柄の中では、楽天・サイボウズ・ZOZO以外はいずれもアベノミクス以降の上場であり、これらの銘柄に関心を持つ投資家の多くは、わずかな金利上昇が超成長株のボラティリティーを高めるシナリオをおそらく想定していません。金利上昇局面とその対策を事前に想定しておかなければ、平静を保って適切に判断することはできません。ホームワークを確実にこなす投資家だけが報われる展開が忍び足で迫り来ています。

※取り上げた個別銘柄への投資を推奨する意図はありません。

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