総務省が1月22日に発表した12月の全国消費者物価指数(CPI)は「総合」が前年同月比-1.2%、「生鮮食品を除く総合」が同-1.0%、「生鮮食品及びエネルギーを除く総合」は同-0.4%となりました。

デフレに再突入したのではないか?

 これで3指数ともに前年同月比マイナスとなるのは3か月連続となります。特に生鮮食品を除く総合は5か月連続で前年同月比マイナスであり、下落幅の大きさは2010年9月以来、10年3か月ぶりの水準となりました。

 また、今回は去年1年間の消費者物価指数も発表されましたが、生鮮食品を除いた総合は前年比-0.2%となっており、4年ぶりの下落となっています。11月公開記事「日本経済は再びデフレに突入か?制度変更が物価に与える影響を確認」でも指摘していますが、もはやデフレに再突入したと指摘しても全く問題のない状態であると言えるでしょう。

エネルギー価格と宿泊料の転換に期待?

 現時点では公式にデフレであるという話は聞こえてきません。その理由として、まだ3指数の前年同月比マイナスが3か月連続でしかないという観点があるかと思います。つまり、物価の下落は1四半期続いただけであり、まだ「継続的な物価下落」には当たらないという考え方も出来るからです。今後、物価の下落基調の反転要因として考えられるのはすぐに2つ思い浮かびます。1つは宿泊料。もう1つはエネルギー価格です。

 今回発表された消費者物価指数の内訳をみていくと、宿泊料が前年同月比-33.5%と大きく下落しています。この大幅下落は「Go To トラベルキャンペーン」の割引の影響ですが、前月の同-34.4%%からは下げ幅を縮小しています。これは札幌市と大阪市が先行してGo Toの対象から対象から外された影響と考えられます。この事象に基づけば、来月以降は「Go To トラベルキャンペーン」の全面的な一時停止の影響が出るため、宿泊料の下落幅は更に縮小するでしょう。

 また、エネルギー価格は原油価格をリアルタイムで反映するわけではなく、数か月の時差をもって出てきます。昨年春の原油相場の急落の影響が徐々に薄れてくることは既に分かっており、宿泊料やエネルギー価格の反転が物価全体に対しては多少なりとも上昇に寄与するということです。来月以降、限りなくゼロに近いとはいえ、前年同月比プラスを続けるようであれば、デフレではなかったということになると期待している向きもあるかもしれません。

オルタナティブデータを見ると当分は厳しい

 しかし、実際にはそのような展開は期待しづらいのではないかと思います。消費者物価指数に限らず、経済指標はどうしても発表時期が1~2か月遅れてしまう傾向があるため、リアルタイムで物価情報を見るため、ナウキャスト社が提供している「日経CPI Now」のデータを見ていこうと思います。日経CPI Nowでは、全国の食品スーパー1200店舗のPOS(販売時点情報管理)データを基に日次の物価や売上高を算出しています。

 日次のT指数の推移を見ると、昨年の緊急事態宣言期間中は物価がそこまで下がっていないものの、緊急事態宣言明け以降は物価が下落傾向にあることが分かります。

 今回も緊急事態宣言明けに再び物価の下落傾向が続く可能性もあり、さらに言えば昨年と同様に緊急事態宣言が延長されるようなことがあれば、昨年同様の展開になる可能性は更に高まるでしょう。

データ以上に厳しい現状

 それでは、緊急事態宣言明けに物価が下落傾向になるのは何故なのでしょうか。データを分析して仮説を作ることは最低限の作業であって、実際には実地調査をすることでその仮説の精度は高まっていきます。昨年の2月以降、私はタクシー運転手や飲食店のオーナーなどに色々と話を聞いてきました。

 これらの話はどれも非常にミクロな話であり、それぞれの事象がどこまでマクロの指標に寄与するのかは分かりません。それを定量的に示せと言われたら難しいのですが、ミクロな事象が積み重なったものがマクロの事象となることは間違いありません。

 たとえば、緊急事態宣言期間中は営業時間の短縮を要請されます。いま発出されている緊急事態宣言では、飲食店の多くは協力金と引き換えに20時での営業終了を求められています。20時に営業終了ということは、ラストオーダーは19時や19時半になります。また、東京都の場合は酒類の提供は19時までにして欲しいとの要求もあるため、居酒屋やバーからすると、もはや夕方以降の稼ぎ時の時間帯は営業ができないのと等しくなります。

 このような状況下では、なんとか人件費と店舗の維持費ぐらいは稼ごうとして、日中にテイクアウトを始めたり、イートインの場合でも通常時より20%ほど値下げをして客を1人でも多く呼び込もうとします。このような施策でなんとか営業を続けたとしても、一度20%オフの相場観が身に付いてしまうと、緊急事態宣言明けに値段を再び元に戻しづらいというのです。

 また、日中のテイクアウト対応だけではとても人件費や維持費を補えないという高級な飲食店は休業という選択をとっています。その結果、従来はそのような店で扱われていた高級食材(魚や肉)の需要が落ちます。しかし、需要が落ちたからといって、生産農家の方々は機動的に生産量を調整することは出来ません。野菜の場合は収穫後に自ら廃棄することもありますが、たとえば牛は子牛を生むサイクルや成長速度を変えられません。そこで、最近はかなりお手頃な値段で高級和牛などの食材を扱う店も目立ち始めています。普段は卸さないような店にまで高級食材が破格の値段で卸されている現実があるのです。

 コロナ禍で給料が下がったり、ボーナスが出なかった人は多いでしょう。また、職を失った人も多くいます。その場合、消費の源泉となる収入が通常時より低下するわけですから、当然家計の財布にヒモは堅くなります。そうなると、よりモノが売れなくなるので、利益率を下げてでも安売りをする。その結果、働いている人たちの給与は下がり、また消費が冷え込んでいく、というデフレスパイラルが発生するのです。

 今回はデフレにはならずに反転するというシナリオと、更にデフレが進行するというシナリを紹介しました。これらのシナリオを頭に入れたうえで、来月以降の物価の行方を注視していくと、これまで以上に経済を見る際の解像度が上がることでしょう。