2021年1月20日にジョー・バイデン氏が米国大統領に就任しました。バイデン政権が掲げる主な政策(経済・通商・環境)は、投資家であれば誰もが気になるところでしょう。それぞれの政策の中身を掘り起こしながら、現在高騰を続ける米国や日本のマーケット、ひいては、どのような業界にどのような影響をもたらすのか、検証していきます。

目次

  1. 【経済政策】連邦法人税と裕福層への増税で4兆ドルの景気対策か
  2. 【通商政策】引き続き中国へのけん制か? TPP参加で日本企業へ追い風も
  3. 【環境政策】経済対策4兆ドルの半分を投入する肝いり政策
  4. 【その他】5G競争、インフラへの投資、FRBとの距離感からも目が離せない

1.【経済政策】 連邦法人税と裕福層への増税で4兆ドルの景気対策か

現在のところ、バイデン政権が打ち出す経済政策は、大きく以下の4つが挙げられます。

それぞれの内容の解説と、その後のシナリオを予想してみたいと思います。

(1)景気対策のための増税には警戒が必要

まず、増税と景気対策が挙げられます。バイデン政権では、連邦法人税を21%から28%に引き上げる見通し。また、富裕層への増税では最高税率を現状の37%から39.6%に引き上げるとの方針を示しています。こうした施策により増える税収約1兆4,000億ドルの財源と、財政赤字拡大による約2兆5,000億ドルを加えたおよそ4兆ドルの景気対策を打つ可能性があります。

増税は本来、株式市場にとってはマイナス要因ですが、NYダウなどは最高値圏にあります。市場では「新型コロナウイルス感染拡大による景気下押しを背景に、増税は当面実現できず、経済対策が先行することはマーケットには好材料」と捉えているようです。ただ、キャピタルゲイン(売買差益)税の強化に動くとの指摘もあり、中長期的には株式市場にとって警戒要因になりそうです。

(2)GAFAへの規制強化は経済全般へ影響する可能性も

また、グーグルを傘下に持つアップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コムのいわゆるGAFAなど巨大ハイテク企業に対する規制強化方針を打ち出しています。

かつては米国経済の成長エンジンとして評価され、サクセスストーリーともてはやされましたが、巨大になり過ぎて競争を阻害するとの懸念が出ています。昨年7月には当時、民主党が過半数を占める米下院の反トラスト小委員会が公聴会を開催し、GAFA4社のCEO(最高経営責任者)を呼び、反競争的行為についての関与についてただしました。

ネット上で大規模なサービスを展開するプラットフォームを構築し、他社が入り込めないなどの現状を問題視。その後、4社がそれぞれの市場で独占的な力を享受しているとの報告書が出ており、これが規制強化のロードマップになるとの見方があります。仮に規制が強化されれば、時価総額の大きい企業だけに、経済全般へ影響が及ぶかもしれません。

(3)オバマケアの推進はどちらに転ぶか

またバイデン氏は、オバマ政権時代に副大統領の職に就いていました。オバマ元大統領は公的医療保険制度の充実を図る、通称「オバマケア(Obamacare)」を推進。バイデン次期大統領もこの政策を存続・拡充すると見られています。

米国では長らく国が医療費の決定に介入せず、保険の加入も強制ではない半面、医療費が高額のため、治療を受けられない人も少なくありませんでした。2010年には医療保険制度改革法を成立させ、国民に公的医療保険加入を義務付ける一方で、低所得者に向けて補助金を出し、医療費の抑制にも取り組みました。しかし、トランプ政権はオバマケアに真っ向から反対し、全面廃止を要請。

医療費の抑制策は、医療機器・医薬品メーカーにとっては逆風になりますが、一方で国民皆保険になれば、国民が医療機関にかかりやすくなるため、結果として医薬品企業にとってもメリットとなる可能性があり、どちらが好影響となるかは甲乙つけがたい面がありそうです。

なお、当時を知る関係者は「オバマケア法案の発表時には、オリンパスやシスメックスなど米国に強い機器や試薬メーカーが売られた一方で、エーザイや第一三共などグローバルに展開する製薬企業は比較的堅調だった」と述べています。

(4)ボルカー・ルールに身構えるマーケット関係者

バイデン政権は、金融規制の強化に乗り出す可能性もあるでしょう。トランプ政権では金融規制を緩めていましたが、政権交代により、銀行や証券会社の活動を制約する動きに出る公算が大きいとされています。

具体的には、高リスク取引を禁止する「ボルカー・ルール(Volcker Rule)」の強化です。これは、オバマ政権時に起こったリーマン・ショックを機に、高いリスクのある取引を禁じるルールで、2010年に成立。しかしトランプ大統領が金融規制の緩和を訴えて当選し、2018年にルールを緩和したことで、市場取引がしやすくなりました。

米民主党の政策綱領にはボルカー・ルールの強化が掲げられており、市場関係者は身構えています。この他、ストレステスト(金融機関の健全化チェック)の強化や配当制限を課すとの見方も出ているようです。日本のメガバンクも米国でビジネスを展開しているため、影響が出るかもしれません。

2.【通商政策】引き続き中国へのけん制か? TPP参加で日本企業へ追い風も

(1)バイデン政権における対中政策の行方

通商政策で最も注目されているのは、米中関係の動向です。トランプ政権は対中政策で、関税引き上げなどの強硬姿勢を取ってきました。新型コロナウイルス感染拡大についても、中国政府の対応を非難しています。ZTEやファーウェイなどの中国系通信機器メーカーに規制を掛け、5GなどのIT分野で中国の競争力を削ぐ方策も取っています。

一連の動きは、経済力や軍事力が拡大する中国に対して覇権の阻止を狙ったものだと考えられるでしょう。バイデン政権も、中国へ引き続き毅然とした態度で臨むとの見方が多いようです。

中国では自国内で半導体を製造したり、工場を自動化したりするなどして、生産性を高める動きが出ています。これを機に、日本のFA(工場自動化)関連や、半導体製造装置関連企業などは、ビジネスチャンスになるかもしれません。

(2)GDP世界1の米国がTPPへ復帰も

また、米国がTPP(環太平洋パートナーシップ協定)へ復帰する可能性も出ています。TPPはオバマ政権が推進し、国境を越えた経済活動をスムーズに行う仕組みですが、トランプ政権は「アメリカ・ファースト(米国第一主義)」を掲げ、2国間の貿易を優先。自国に優位な協定を結ぶ戦略を取ってきました。2017年には、TPPの締結交渉からも離脱し、WTO(世界貿易機関)よりも高いレベルの自由化を目標に据えました。

ところが、多国間の連携を重視するバイデン氏がTPPへの復帰に舵を切れば、現在世界1位のGDP(国内総生産)を誇る大国が参加することになり、巨大な貿易圏が誕生するかもしれません。TPPには、「モノ」以外にも知的財産、電子商取引、投資などの項目も含まれており、日本企業にとってもメリットの方が大きいのではないでしょうか。

3.【環境政策】経済対策4兆ドルの半分を投入する肝いり政策

バイデン政権が最重視しているのが、環境政策の分野だといってもよいでしょう。冒頭の経済政策でも触れましたが、バイデン政権は増税で増える財源と財政赤字を合わせて、4兆ドルの経済対策を実施するものと見られています。このうち、4年間で2兆ドルをクリーンエネルギー関連とインフラに投資する計画です。

大統領選の公約では、風力発電や持続可能な住宅、電気自動車(EV)などを推進すると掲げており、雇用の創出も狙っています。2035年までにCO2(二酸化炭素)を排出しない電力業界の実現も目指しています。太陽光などの再生エネルギーを促進し、その電気をためる電力貯蔵施設の設置を加速する予定です。

トランプ大統領は、地球温暖化については「フェイク(嘘)」など切り捨ててパリ協定を離脱しましたが、バイデン政権ではこの協定にも復帰する公算が大きくなっています。パリ協定は、2020年以降の地球温暖化対策を定めた多国間の国際的な枠組みであり、世界の平均気温上昇を産業革命前と比較して、「2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力を追求すること」を目的としています。今世紀後半に温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすることも目標です。

欧州や日本でも脱炭素の動きが加速しており、今後数年間は、世界的にクリーンエネルギー関連株が注目されそうです。洋上風力発電、バイオマス発電、EV、水素(燃料電池)、全固体電池に関連する銘柄などが有望といえそうです。その一方で、石油関連企業の経営にとっては大きな打撃となることが想定されます。

4.【その他】5G競争、インフラへの投資、FRBとの距離感からも目が離せない

バイデン政権では、未来のための技術革新として5G競争に勝利し、全国に高速通信網を整備することも目標にしています。また経済対策ではクリーンエネルギー投資に重点を置くものの、老朽化した道路や空港、橋、上下水道などのインフラにも積極的に投資するという方針です。さらにトランプ大統領が過度に政策へ干渉したと報道されるFRB(米連邦準備制度理事会)については、独立性を尊重する方針のようです。

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