GMOグローバルサイン・ホールディングスは、2020年12月期第3四半期決算において、前年同期比で売上高3.9%増、営業利益1.7%増と堅調な業績を発表。電子証明書を扱うセキュリティ事業の進捗が目立ちました。

先行きを占うには、「脱ハンコ」「DX」といったキーワードがホットなうちに、ライバルを出し抜きスピード感をもって、対象顧客への訴求を進めていけるかが焦点となります。2021年2月に控える本決算発表を見据え、第3四半期決算の内容点検と未来への期待、そして課題について取り上げました。

目次

  1. 第3四半期までの売上高は前年同期比3.9%増、営業利益は1.7%増。業績予想は据え置き
  2. 安定のクラウド・ホスティング事業を確保し、ソリューション事業で攻める
  3. 「脱ハンコ」が象徴する国・地方行政のDXへ本格参入。AWSの成長果実を着実に収穫していけるかどうかも要注目
  4. 脱ハンコ」「DX」とキーワードが新鮮なうちに、知名度を上げ対象顧客への訴求をどれだけできるだけ進めていけるかが焦点

第3四半期までの売上高は前年同期比3.9%増、営業利益は1.7%増。業績予想は据え置き

2020年11月11日に行われたGMOグローバルサイン・ホールディングス(以下「GMOグローバルサイン」)の2020年12月期第3四半期決算発表について、主な経営指標と事業の進捗、本決算と今後の成長を占う上でのポイントを見ていきましょう。

GMOグローバルサインは、インターネットというフィールドで金融・メディア・インフラ事業などを手掛ける「GMOインターネットグループ」の主力企業として、その一角を占めています。世界で主要な電子認証局を運営するブランド「GlobalSign」を通して培った知名度をベースに、電子署名や電子契約などの電子文書向けトラストサービスを推進しています。

2020年12月期の第3四半期決算(2020年1月1日~2020年9月30日)における売上高・営業利益は以下のとおりです。

第1四半期~第3四半期の合計で、売上高・営業利益のいずれも前年同期からの進捗を見せました。売上高営業利益率は10.8%で、前年同期比から0.23%減となっています。

事業別に見ると、おもに電子証明書を取り扱うセキュリティ事業の堅調ぶりが目立ちます。クラウド・ホスティング事業も売り上げを稼ぐ点では重要ですが、レッドオーシャンであり利幅は薄い水準です。

今話題の電子印鑑を扱うソリューション事業は売上高が大きく伸びています。主力商品「GMO電子印鑑Agree」の顧客拡大施策コストが響いてのセグメント損失を計上していますが、甘受すべきフェーズといえるでしょう。

2021年2月の本決算発表に向け、業績予想は据え置きとしました。上の表内2020年12月期第4四半期カッコ内の数値は、通期予想を達成するために必要な売上高と営業利益です。

昨年の推移に照らすと、売上高と営業利益ともに各四半期でさほど季節性は見られません。売上高は達成は可能そうですが、営業利益は微妙な水準と見られます。業績予想をクリアできるかが本決算の焦点の1つです。

株価は第3四半期決算発表翌日(11月12日)の終値で10,340円をつけました。10月15日に13,780円の最高値を付けた後は下落基調に入り、8月12日の終値でつけた6,970円を割ってダブルトップを形成するかどうかが気がかりです。

10月15日以降、下げ材料となるようなニュースは特に出ていません。電子印鑑分野のライバル「弁護士ドットコム」と値動きがかなり重なっていることから、「脱ハンコ」をはじめとするデジタル化を材料に、短期資金が出入りしている印象です。

安定のクラウド・ホスティング事業を確保し、ソリューション事業で攻める

GMOグローバルサインの業績をセグメントで見ると以下のとおりとなります。

売上高の4割強を占めるクラウド・ホスティング事業では、AWS(アマゾン ウェブ サービス)の導入支援から運用までをトータルにサポートする「CloudCREW」の利用増が著しく、前年同期比22.1%の伸びを見せています。

当セグメントについて、経営陣は「クラウド・ホスティング事業においては、従来のホスティングサービスの売上高については、国内外の競合他社との激しい価格競争や当社サービスの統廃合のため、緩やかながら減少傾向が続いております」との認識。利幅の薄い分野ではあるものの、資金繰りなどの企業経営的には安定売り上げは非常に重要といえ、実は是が非でも崩せないセグメントです。

セキュリティ事業の主力であるSSLサーバ証明書発行事業「GlobalSign」は大手顧客への販売が堅調に推移しました。9月には後述の「GMO電子印鑑Agree」より、電子署名・電子サインのエンジンを切り出したリモート署名ツール「PDF電子印鑑エンジン」を提供開始。すでに他社システムによるIT化を進めている企業への訴求を狙います。

SOHOや中小規模法人向けに「業務効率化・高付加価値化」を訴求するソリューション事業では、いわゆる「電子契約」がクラウドで簡単に行える「GMO電子印鑑Agree」が注目です。

脱ハンコの流れに乗り利用アカウント数は7万件を突破し、前年同期比でアカウント数は16倍、契約送信数は2.4倍。ライバルである「弁護士ドットコム」が提供する「クラウドサイン」を猛追しています。

計画の数値などは公開されていませんが、ライバルサービスであるクラウドサインの売上予測は目安になるかもしれません。

2020年7~9月におけるクラウドサインの売上高は3億4,400万円でした。期初の計画によると、正確な数値は非公開ですが、決算説明資料から読み取れる2020年10~12月の売上高はおよそ4億円程度で、増加率は16%程度の計算です。現時点で業績予想の変更はありません。

現時点で、いわば格上のライバルが16%程度の成長を見込んでいることは「GMO電子印鑑Agree」の成長を占う上でも心強いといえるでしょう。広告による集客を行ったほか、12月からは価格・スペックともクラウドサインを凌駕する水準に改定し、早い段階でのシェアNo.1奪取を狙います。セグメント損失は拡大したものの、必要性の高い投資といえます。

業績予実比較では、売上高は全体で73.4%の進捗となりました。全体の9割以上を占めるクラウド・ホスティング事業とセキュリティ事業の進捗が順調であり、達成の可能性は高いと推測されます。

営業利益は全体で70.7%の進捗にとどまり、ソリューション事業の損失が、第3四半期時点ですでに通期予想の水準に接近しています。今後、営業利益予想の達成/不達成がどう株価に織り込まれていくか、要注意です。

「脱ハンコ」が象徴する国・地方行政のDXへ本格参入。AWSの成長果実を着実に収穫していけるかどうかも要注目

2020年9月以降、GMOグローバルサインの株価は「脱ハンコ」という単語にまつわる投資家の思惑によって、いわば「振り回されている」印象です。

「脱ハンコ」すなわち電子印鑑・電子承認は、新型コロナウイルス感染拡大でテレワークを導入する企業が増えたなか、「押印のためだけに出勤するケース」などの不安全・非効率が取り沙汰されたことで、実現が急がれるようになりました。

2020年9月に誕生した菅義偉政権は、河野太郎行政改革担当大臣と平井卓也デジタル改革担当大臣のタッグによる行政のデジタル化(DX)を目玉政策に据えました。「脱ハンコ」は、政府のデジタル化を推進する姿勢を国民にアピールするためのキャッチーなワードとして一躍浮上したのです。

総務省は、電子文書が改ざんされていないと証明する「タイムスタンプ」を2020年度から、電子的な社印である「eシール」を2021年度から、それぞれ実用化に向け推進しています。「脱ハンコ」の本質は「業務続きの簡略化」であり、行政のデジタル化、ひいてはDX(デジタル化による組織・業務・生活の変革)に関連する企業には、民間への波及も含め、巨大なチャンスが訪れているといえるでしょう。

「脱ハンコ」を糸口に進められるDXに向けた、GMOグローバルサインの回答の核は「社名変更」にあります。

2020年9月に「GMOクラウド」から「GMOグローバルサイン・ホールディングス」への社名変更を行ったことは、「脱ハンコ」に加え「サーバ証明書」分野にも強みを持つ同社が、共通する「サイン」というキーワードのもとに、成長分野にフルコミットしていくという決意を顧客・投資家に対して示したものといえるでしょう。

その証拠に、2021年度から開始される「日本版eシール」について、いち早く対応サービスの設計・開発を決定しています。加えて社内に「デジタル・ガバメント支援室」を設置し、「脱ハンコ」をきっかけに数年単位で進んでいく国・地方行政のDXに本格参入しました。

「脱ハンコ」民間向けサービスの中核をなす「GMO電子印鑑Agree」については、この2ヵ月でweb訪問数が減少トレンドにあります。広告効果が減衰している可能性も考えられ、来期に向けてのさらなるプッシュを要する局面かもしれません。

(ALTalk「GMOグローバルサイン・ホールディングス」指標より)

クラウド・ホスティング事業については、経営陣も激しい価格競争の中で緩やかな減少傾向にあるという認識を示しています。

しかしながら、グローバル市場を点検すると様相は一変します。クラウド部門の看板サービス「CloudCREW」のプラットフォームであるAWSが著しい成長を継続しているからです。

2019年、全世界のクラウドインフラストラクチャサービスにおけるAWSのシェアはトップで34.6%。続く2位であるMicrosoft Azureの18.1%を大きく引き離しています。2019年のクラウドインフラストラクチャにおける総支出は、2018年の780億ドルから290億ドル増加し1,070億ドルを突破。2020年には32%増加し1,410億ドルになる見込みです。この勢いは続き、総支出は2024年には2,840億ドルに達すると予想されています。

AWSがシェアを維持していくことができれば、今後も売上成長は続きます。GMOグローバルサインは、2019年から2020年にかけて32%成長し、それから2024年まで年率19.1%の成長が見込める商材の、エキスパートたる地位を占めているのです。

日本国内でのAWSの成長が世界水準に準ずるとは当然考えられません。そこで日本国内での成長率を、GDP成長率と同様に全世界の6分の1として割り引いて試算してみます。2020年~2024年にかけては、19.1%÷6=年率3.2%程度の成長を期待してもおかしくはないでしょう。

競合他社がひしめく分野ですが、現状程度に泳いでいければ、安定した売上・収益が見込め成長分野への投資を支えるコア部門としての存在感は保たれます。

GMOグローバルサインは今後、新サービス・新規事業に参入する手段として、M&Aや資本提携を含むアライアンス(戦略的提携)を活用していく方針です。

そもそも同社も資本提携によりGMOグループに入り、M&Aを繰り返して現在に至っています。現状、新たなM&A案件などは明らかにされていませんが、株価に与える影響が大きいイベントであり常にアンテナを張っておく必要があります。

「脱ハンコ」「DX」とキーワードが新鮮なうちに、知名度を上げ対象顧客への訴求をどれだけ進めていけるかが焦点

本決算では、通期目標の達成度が最大の注目点となります。それまでにアナリストのコンセンサスや経営陣からの情報発信がないか、情報感度は高くしておきましょう。

「脱ハンコ」「DX」とキーワードが新鮮なうちに、知名度を上げ想定顧客層への訴求を一刻も早く進めていくことが肝要です。ソリューション部門の今期損失に関してはやむを得ないと考えるのが妥当であり、むしろ「GMO電子印鑑Agree」への積極投資と、国・地方行政への食い込み策については株主総会で必ず質問が出るはずなので要チェックです。

セキュリティ事業は同社の事業セグメントの中では比較的安定しており、特段の新展開を期待する局面ではありませんが、堅実な成長が続くかに注目です。クラウド・ホスティング事業が引き続き高稼働を保てるかも長期的な要ウォッチ事項。AWSの成長をいかに取り込んでいくか、レッドオーシャンで勝つ施策を経営陣から聞き取りたいところです。

類似・競業関係にある企業の売上・収益動向は以下のとおりです。

一様に増収基調にありますが、成長企業の常として投資先行となりやすいフェーズです。利益をどれだけ残すかは事業分野の動向や個別の経営方針によるため、成長株投資家は設備・人材・宣伝等投資の「質」まで踏み込んで投資判断を行う必要があります。

GMOグローバルサインの株価指標は以下のとおりです。

GMOグローバルサインの株価は1株当たり利益の106.1倍に評価されています。ファンダメンタルズにもとづいた株価とはいいにくい水準です。

クラウド・ホスティング事業という安定的な売上が見込めるセグメントがあることは、長期ホールドを考える投資家には安心材料です。短期的に財務が悪化したり、成長分野への投資資金が枯渇するといったリスクが小さくなります。

目先では、国・地方行政DXへの食い込みと「GMO電子印鑑Agree」の成長をどう評価するかがカギとなります。短期の投資では「脱ハンコ」「DX」のキーワードが新鮮なうちにどれだけ利幅をとれるか、潮目の目利きと出入りの機動力が問われる局面が続くでしょう。

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参照資料

2020年12月期第3四半期決算資料

四半期報告書

四半期決算短信

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